3.中学生の恋

ホワイトデー当日の出来事

目安時間 6分

ドキドキの場面から浮き足立って家に帰った。

 

家に帰って学校での出来事を思い出せば思い出すほど、夢だった気がしてきた。

だって、あのクールで無口で沈着冷静な高田くんが、私の家に来るはずがないし、来ると伝えに来るわけがない。

ホワイトデー当日

学校にいる間、どこかの休み時間で居眠りでもしてしまっていたのだろうか。

 

そして、あの時間が夢であったことを証明するかのように、時間だけが過ぎた。

 

 

 

17時が過ぎ、17時半が過ぎ。

 

18時が過ぎ、18時半が過ぎ。

 

19時が過ぎた。

 

 

・・・やっぱり、高田くんが来るはずが無いんだ。・・・

 

 

あの時間は本物だったかもしれない。

 

でも恐らく気が変わったのだろう。

 

それかホワイトデーのお返しを他の子に渡してる間に、告白を受けたりしてめでたくカップルになったのかもしれない。

 

マイナス思考の負の感情がグルグルと渦を巻き始めた。

 

 

そして諦めかけたその時、家のインターホンが鳴った。

 

 

真っ先に私が出た。

 

 

私「はい」

 

相手「あ、えと、高田ですけど‥」

 

私「はい、行きます」

 

 

それだけ言うと急いで玄関を出て、マンションのエレベーターに乗り込んだ。
(うちはマンション住まいです)

 

エレベーターには大きな姿見の鏡が付いている。

鏡に映った自分をチラッと見た。

 

その時初めて、恋する自分の顔を見た。

 

私、高田くんと話す時、いつもこんななのかな?
これじゃ、バレバレだな〜。。。

 

 

などと考えていた気がする。

 

走ってエントランスへ駆けて行くと、息を切らしながら自転車から降りる高田くんがいた。

 

 

辺りは完全に夜の暗闇に包まれていたけれど、高田くんがあまりにも神々し過ぎて、白い光が体全体から放たれているように見えた。

 

ただ、マンション内部に設置された照明が逆光になって、高田くんの表情がハッキリと見えない。

 

 

高田くんが紙袋を持ちながら近づいて来た。

 

高田くん「これ、ホワイトデー」

私「あ、ありがとう!」

・・・・・・

 

沈黙の時間が少しだけ流れた。

やり取りする紙袋のカサカサという音だけが響いた。

 

 

高田くん「うん。じゃ、また」

 

高田くんはそれだけ言うと、自転車にまたがり帰って行った。

 

 

恐らく1分もかかっていない会話。

 

たったそれだけなのに、頭から湯気が出そうだった。

 

 

しばらくその場に立ち尽くした。

 

今目の前で起こったことが、何かの間違いなのではないかと思うほど。

 

 

何分くらいたたずんでいたんだろう。

 

外気の寒さに気づき、マンションのオートロックドアに入って行った。

 

 

ふらふらになりながらまたエレベーターに乗り込んで鏡に映った顔は、真っ赤に茹で上がっていた。

 

 

家に帰ると真っ先に自分の部屋に入り、呼吸を整えた。

 

体全体が心臓になってしまったみたいに、体中からドキドキと聞こえるようだった。

 

 

高田くんにもらった袋から中身を取り出すと、可愛い小さい犬のぬいぐるみがカゴに入った飴を抱えている といったものだった。

 

 

そして犬のお腹には押すためのボタンがあり、そこを押すと「ワン、ワワン」という鳴き声を3セット発するものだった。

 

人生で初めて嬉し泣きをした日だった。

 

 

この瞬間から、この犬のぬいぐるみは私の宝物となり、学習机のセンターが置き場所となった。

 

キーホルダーとしてぶら下げる用のリングもついていたけれど、無くしたら困るので置いて鑑賞することにした。

 

この日から、私の勉強時間は至福で包まれることになった。

 

疲れたら犬のぬいぐるみを見て、ボタンを押してまたやる気を出す。

 

ホワイトデーの日の記憶を遡っては、にやけて勉強に身が入らないことも度々あった。

 

幸せな中2の終わり。

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