ある日の放課後、高田くんが
「さいみ、さいみ、ちょっと待ってて!」
と声をかけてきた。
(私の苗字がサイジョウ、なまえがミクのため、苗字&名前の頭文字を取って、「さいみ」と呼ばれていた)
何だろう・・・?
どこかから出したカセットテープを、教室にあったラジカセにセットし再生ボタンを押す。
流れ出た曲は、松田聖子さんの「大切なあなた」。
冒頭の↓の部分
♪めぐり逢えたね 待っていた運命の人に
広い世界でひとりだけ 大切なあなた♪
のところで
♪ミクに逢えたね 待っていた運命の人に
広い世界でひとりだけ 大切なあなた♪
と替え歌をしてきた。
・・・えっ!?・・・
予期せぬ出来事に呆然としていると、
「って、カズが言ってたよ!」
と高田くんはニヤリと笑い、教室から廊下へ出ると走って行ってしまった。
一体、何が起こったんだ!?
内心心臓バクバク。
カズというのは、幼稚園からの幼なじみの一人。
親同士も仲が良い腐れ縁だった。
でも今は、カズがそれを言ってようが言ってなかろうが、どちらが事実であろうと、正直そんなのどうでも良かった。
ただ高田くんがそれを伝えるためにテープを用意して聞かせてくれて、しかも私の下の名前が「みく」であるということを知っててくれていた!!
同じクラスなんだから当たり前かと思うけれど、ただそれだけが純粋に嬉しかった。
そして「みく」という単語が、高田くんの口から直接発せられたことにも胸が高鳴った。
家に帰ってからも、高田くんから放たれた言葉を何度も繰り返し思い出しては、心臓がいつもとは違う音で鳴る。
こんなに緊張することも、こんな感情になることも初めての経験で、自分自身が一番驚いていた。
それから私の高田くんへの想いは一気に急上昇。
常に学校でも目で追ってしまうし、姿が見えないと探したりもした。
土日に会えないのが寂しいと感じ、毎日学校があれば良いのにとすら感じた。
高田くんが男子と楽しそうに話していたり、笑っている姿を見られるだけで幸せだった。
ただ、当然のことながら高田くんはモテた。
しかも高田くんのことを好きだという女の子は皆、女子の間でも一目置かれるような子たちばかり。
私はたくちゃんの経験から、絶対に好きな人をばらさないと決めていたので、一切言わなかった。
おそらく態度でバレバレだったのだろう。
「高田のこと好きでしょ?」
と、よくライバル女子から聞かれたけれど、
「そういうのじゃないんだよ」
と答えていた。
この気持ちを私の中だけで大切にしたい。
ただ、それだけ。
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